シリーズ「阪和電鉄開通90周年記念 和泉に電車がやってきた」第3回

2020/06/27

 

第3回 阪和電鉄による信太山地域の開発

前回では、阪和電鉄による和泉府中から東和歌山までの開通と経営状況、沿線開発について紹介しました。今回は、阪和電鉄が信太山駅・葛葉稲荷駅周辺で行った沿線開発と旅客誘致について紹介します。

信太村では、阪和電鉄開業時に村内に駅が設置されなかったため、村を挙げて駅の誘致に取り組みます。駅を誘致するため、村は阪和電鉄に500円を寄付します。これは阪和電鉄による信太村の不動産取得にかかる税制面の助成という側面もありました。これを受け、阪和電鉄は信太村内に駅を設置することになり、昭和7年(1932)2月2日、現在の北信太駅にあたる葛葉稲荷駅(同年中に阪和葛葉駅と改称)が開業します。

葛葉稲荷駅(年次不明)          千枝の荘経営地パンフレット(表)

           

 

阪和電鉄の本社内にあった大阪近郊土地株式会社は、葛葉稲荷駅周辺を「千枝の荘経営地」として分譲します。線路を挟んで広大な住宅地が開発されていたことがパンフレットの中面から分かります。また、左のチラシからは、開業記念に商品券が当たるクジが実施されていたことが窺えます。また、売約成立者には阪和電鉄の全線無料乗車券が進呈されました。

 

千枝の荘経営地分譲パンフレットとチラシ

なお、年月賦提供で千枝の荘経営地は分譲されました。これは現在の住宅ローンに近い性質のものです。大都市のサラリーマンが郊外に家を買いやすくするためのもので、大正末から昭和初期に各地で行われた郊外住宅地の分譲の際には広く年月賦払いの制度が取り入れられました。千枝の荘経営地は、昭和10年(1935)から阪和電鉄自身の手で、聖ヶ岡住宅地として売り出されることになります。

信太山駅は、和泉府中開業時から設置された駅です。信太山駅の山手に位置する黒鳥山一帯を黒鳥の立石土地部が、黒鳥の荘住宅地として分譲します。ここは現在の山荘町にあたる地域です。信太山駅から黒鳥山まで阪和電鉄の直営バスも運行されるようになります。売約成立者には、阪和電鉄の半年間全線無料乗車券が進呈されました。黒鳥の荘でも、千枝の荘と同じく売約成立者向けの商品券が当たるクジが行われていました。

黒鳥の荘分譲チラシ 阪和ニュース昭和7年11月10日号

    

 

また、阪和スヰートハウスという温泉付きリゾート施設や本格的なゴルフ場である信太山ゴルフリンクスも設置されています。これらの施設も人気を博しましたが、ゴルフリンクスは戦時中に不要不急施設とされ、撤去されています。跡地は大阪市が買収し、一部は現在大阪市立信太山青少年野外活動センターになっています。

阪和スヰートハウス 広告

 

信太山ハイキングコース

このほか信太山をめぐるハイキングコースも整備されます。このコースは葛葉稲荷駅を出発し、信太山地域の名所旧跡を回るもので、葛葉稲荷、聖神社、蔭凉寺、黒鳥山を経て信太山駅に至る5キロのコースです。

沿線の名物として、「信太山盆踊り」があり、阪和ニュースの昭和8年(1933)9月1日号では、「正に日本一の信太山盆踊り」という見出しが出ています。盆踊り当日には、各地から多くの人々が見物にやってきました。阪和電鉄は多数の来場者に対応すべく、終夜運転を実施しています。

阪和ニュース 昭和8年9月1日号

このように阪和電鉄は、葛葉稲荷駅および信太山駅周辺を大阪の郊外住宅地および観光地として重視し、その開発にあたったのです。

次回は最終回、南海電鉄による阪和電鉄の合併について紹介します。お楽しみに!

和泉市文化財活性化推進実行委員会ブログ